人と機械が融合するサイバネティックスとは?

高度なICT*を用いた技術が急速に発展していますが、AIをはじめとした技術はシンボル化できる実データを用いる技術です。

今回、ご紹介する技術は、感覚や動作など言葉にできないものや、人によって判断が異なるような主観的なものに対して、より人間らしく認識・理解する技術。人の生活を機械がサポートし、人と機械の共生を目指す技術、そして、さらに生体と機械を融合する考え方のもと、さまざまな研究分野で応用されている技術になります。

サイボーグやサイバーパンクなどに用いられるサイバーの語源となった「サイバネティックス」という科学理論の概要とその活用について、まとめてみました。

*Information and Communication Technologyの略。情報通信技術。

サイバネティックスとは?

サイバネティックスとは、1940年代に当時、マサチューセッツ工科大学の教授だったノーバート・ウィーナー博士(Norbert Wiener)によって提唱された「通信工学と制御工学を融合した理論」や、「生体と機械における制御と通信」に関する総称や考え方のことをいいます。
この理論や考え方は現在の航空宇宙産業やコンピューターテクノロジーに大きな影響をもたらしています。

サイバネティックスが活用される(活用が期待される)分野

生体と機械における通信と制御を行うサイバネティックスという考え方において、人体に対して通信や制御を行うことで、脳波や筋電位などの生体信号のセンシングやフィードバックにより支援しようという試みが始まっています。
例えば、スポーツにおける「身体知」を獲得し、仕組みを明らかすることで、競技パフォーマンスの支援を可能にすることや、楽器の演奏、絵の描き方などを他者に伝える技術の開発です。競技者や演奏者、画家が持つ「身体知」をその技を習得したい人誰もが獲得し、その技量を発揮できるという研究が進められています。

また、医療や介護の現場や災害の現場で活躍が期待されている遠隔操作ロボットの分野でもサイバネティックスの活用の研究が進められています。今まで、遠隔操作では、通信時間をはじめ、カメラやディスプレイなどの制御に時間が必要であることから、どうしても遅延が発生していました。
サイバネティックスを活用することで、操縦者の動作予測、作業場所の物理変化予測、ロボットの動作補正などといった支援を行い、操縦者に遅延を感じさせない遠隔操作システムの開発も進められています。

遠隔操作ロボットの活躍が期待される医療現場のイメージ

 

サイバネティックスの活用効果

サイバネティックスは、生体と機械における通信と制御を統一的に扱おうという考え方に基づいた理論だと説明してきました。この理論の活用効果として、人の運動能力を支援・拡張する技術開発に期待が集まっています。人体が運動する際、まず感覚器で受けた刺激が脳によって知覚・認知されます。
そして、その反応として脳から発せられた運動指示が運動器に伝達され、筋肉が収縮することで動くことができます。
サイバネティックス技術の応用として、感覚器や運動器へのフィードバック(刺激、介入)のサイクルに取り入れることで運動状況の把握や運動の改善などにつなげる開発が進められています。この技術は医療の分野や高齢者の健康寿命への取り組みへの活用が見込まれています。

サイバネティックスが注目される背景

サイバネティックスは、ノーバート・ウィーナー博士が1948年に出版した『サイバネティクス:動物と機械における制御と通信』によって知られるようになりました。「通信工学と制御工学を融合した理論」や、「生体と機械における制御と通信」という観点から、生体も機械も情報処理という点でみればみな同じ、という当時衝撃的な仮説でした。

ウィーナー博士のサイバネティックス理論には、専門化と細分化が進行した学問の領域を統合するという目的があったといいます。文理融合、科学芸術、領域横断という学問再編を試みたのです。
そして、ウィーナー博士はそれぞれの専門分野で、方法論などは違っても、関心が同じであったりアプローチが共有されていたりすることが少なくない、それらを統合することはできるはずと考えました。
そうしてさまざまな各専門の研究者たちと交流する中で、サイバネティックス理論を確立したのです。あらゆる学問の領域を横断するサイバネティクス理論が多くの研究に活用され、今日ある技術、そして今後の技術開発にも貢献しています。

まとめ

サイバネティックス理論は、さまざまな学問の領域を横断し、「生体と機械における制御と通信」という理論で、「機械の人間化」を目指す理論ともいわれています。現在、この理論は航空宇宙学やコンピューターテクノロジー、生物学など数多くの研究に活用されています。
今後もさまざまな研究開発において、課題解決に応用されることが期待されています。

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渡部 貢生
ライター

渡部 貢生

ビジネス・経済、不動産、IT、医療行政をはじめ、飲食、旅行など幅広いジャンルで執筆、編集者として活動。また、専門紙での記者をしていた経験もある。多忙な日本のサラリーマン生活から離脱するため、“微笑みの国”タイにおよそ6年間滞在。タイではタイおよびASEANの日本人向けビジネス・経済情報誌の制作に従事。いずれ日本とタイの2拠点生活を夢見て精力的に活動中。

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監修者

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SNS開発・運営スタートアップ企業で、コンテンツディレクターの経験あり。ガジェットや電子楽器・DJ機器をいじるのが好き。興味が湧いたら、とりあえず現場に行ってみたり、本を読んでみたりするタイプ。最新のテクノロジーの話題や新製品のニュースで、少し先の未来を妄想するのが趣味です。

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