日本科学未来館の特別展示を訪問
近年、ロボットが様々なところに導入され、人がやらないといけない仕事が減ってきたように思えます。
一方で人間の代替(自動化)ではなく、人間の能力を向上させる技術として「自在化技術」の研究が行われています。
INDEX
自在化技術とは
自在化とは、機械によって拡張された能力を、人間が自分の身体のように自由自在に扱えることを指しています。
人間拡張の一環ではありますが、「人間拡張」は人に寄り添い人の能力を高める技術を指す一方で、「自在化」は人間拡張の技術をさらに自己の意識で身体の範囲を自由自在にコントロールできる技術を指す点で、すこし異なっているといえます。
参考:身体の「自在化」は社会をどう変えるのか|稲見昌彦×吉藤オリィ | 遅いインターネット
自在化技術の研究について
自在化の研究は、大きく5つの分野に分けられています。
- 超感覚「Augmented Perception」
- 超身体「Body Augmentation」
- 幽体離脱・変身「Out of Body Transform」
- 分身「Shadow Cloning」
- 合体「Assembling」
自在化技術は、東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 稲見研究室を中心とした「JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト(東京大学 先端科学技術センター)や慶應義塾大学インメディアデザイン研究科 Embodied Media Project」で研究が行われています。
中でも「JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト」では、人間がロボットや人工知能などと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま自在に行動することを支援・研究しています。
▼ERATO とは
ERATOは、創造科学技術推進事業を前身とする歴史あるプログラム。
今後の科学技術イノベーションの創出を先導する新しい科学技術の潮流の形成を促進し、戦略目標の達成に資することを目的として、既存の研究分野を超えた分野融合や新しいアプローチによって挑戦的な基礎研究を推進している。
今回、筆者は日本科学未来館の「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」という特別展示を訪問し
実際にJST ERATO 稲見自在化身体プロジェクトで行われている自在化技術や、その他の自在化技術を見ることができたので紹介していきます。
▼特別展示開催概要
特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」
開催期間:2022年3月18日(金)~8月31日(水)
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン
時間:10:00~17:00 (入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日 (ただし、3/22~4/5, 5/3, 7/26~8/30は開館)
https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/spexhibition/kimirobo.html
人間の体を拡張せよ
日本科学未来館の特別展示では、「人間とはなにか?」をテーマに「からだ」「こころ」「いのち」の3つの切り口からロボットが紹介されています。
ロボットがいつ、どのようにうまれたのか。
人間とロボットはどのように歩んできたのか。
ロボットの誕生の歴史が年表で並んでいました。
歴史上、「人間拡張」研究の最初の例も紹介されていました。
今回の特別展示では「自在化技術」に注目して見学をしてきました。
で紹介されていた「自在化技術」は、主に脚や腕、視野、身体動作を向上させる技術でした。
実際の展示の様子を紹介します。
JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクトの展示
MetaLimbs(メタリム)
複数の腕の動きを可能にし、身体感覚を拡張するロボットです。
装着型のロボットアームで、2つのロボットアームを左右の足に対応づけて動かすことで操作ができます。
足の指の曲がり具合によって、ロボットアームの指の動きを制御しています。
ロボットアームが物に触れた情報が足裏に触覚として伝達されることで、まるで腕が増えたかのような身体感覚を拡張するロボットです。
「もし腕が増えたら、どんな感覚が生じるのか」そんな疑問から開発されたナビアームは、実用化例を検討中です。
参考:稲見ERATO|MetaLimbs
Naviarmはロボットを用いて、人間に動作を教えることができます。
大人が子供に教えるように、ナビアームを装着した人は、2本のアーム型ロボットを通して熟練者の両腕の動きを再現できます。
熟練者の動きをリアルタイムで伝送することも可能です。
「からだで憶える」という言い回しがあるように、世の中には、繰り返しの動作の中で感覚を掴むことで身につくスキルもあります。
今後は、ダンスやスポーツ、伝統といった分野での応用が期待されています。
T-Leap(ティー – リープ)
T-Leapは360度カメラとマイク、スピーカーを装着した人の情報を遠くにいる人(遠隔接続者)に転送するシステムです。
遠くにいる人は、360度映像の中から選択した方向を見ることができ、周囲の音を聞くことも可能です。自分の意志で自由に見回しながら会話ができるので、その場にいるような体験をすることができ、視野・身体動作の自在化を実現しています。
遠隔者とリアルタイムで双方向のコミュニケーションができるため、「買い物支援」や「遠隔で葬儀に参加できるシステム」、「360度のライブ配信」などさまざまな場面での実用化が期待されています。
今回の特別展示では、Naviarm と T-Leap 、2つのシステムを同時に使った様子が展示されていました。
2つのシステムを同時に使うことで、現場の様子を共有しながら動作を指示したり職人技を実演して見せたりすることもでき、より深い技能や知識の伝達が可能となります。
参考:稲見ERATO|Exploring in the City with Your Personal
稲見ERATO|遠隔葬儀参列⽀援実践
その他の自在化技術の展示
装着型サイボーグHAL®
脚の自在化
HAL®(Hybrid Assistive Limb)は、人の意志を反映した生体電位信号に基づいて、意志に従って身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる装着型サイボーグです。
人が動くときには指令信号が脳から神経を通じて筋肉へ送られます。この時に装着車の皮膚正面に現れる「生体電位信号」を読み取り、意思に応じた動作を実現するとともに、同期した感覚神経の信号を脳に返すことで身体機能の向上を促すことができます。
医療分野では、脳神経、筋系疾患の機能改善を促進する治療として活用されています。
福祉分野では、身体機能の回復を促すことで障害がある方や脚力が弱くなった方の自立を支援。
介護や作業現場で重いものを持ち上げる人のサポートや、アスリートのトレーニングにも使われておりさまざまな分野で活躍しています。
参考:世界初の装着型サイボーグ「HAL®」 – CYBERDYNE
スケルトニクス
ロボットライドとも呼ばれる、人間が装着して動かす動作拡大型スーツ。
電気を使わず、操作する人の力だけで動かすことができるのが特徴です。
スーツを着て体を動かすと、その動きがそのままロボットに伝わり通常の人体では表現できないダイナミックな腕や足の動きを実現できます。これまでの体の限界を拡張し、人間の新しい可能性を見出したと言われています。
将来的にはゲームやスポーツ、災害救助への応用など幅広い活躍が期待されています。
零式人機(れいしきじんき)ver.1.2
操作者の思いどおりに、直感的に高所重作業を行える汎用人型重機。
高所作業車のクレーンの先端に取り付けたロボットを遠隔操縦して高所重作業を行います。
力制御技術という技術で各関節の力を緻密に制御して、重く高出力のユニットでありながら、人が軽く押して自由に動かすことができます。
零式人機は、鉄道インフラメンテナンスの社会実装を進めています。
OriHime(オリヒメ)
距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人の、もう一つの体となる遠隔操作が可能な分身ロボット。
タブレットを利用し、遠隔に設置しているOriHimeロボットを操作することができます。
すでに実用化をしていて外出が困難な人でも働くことの出来る、分身ロボットカフェ「DAWN」を実験店舗として展開しています。
OriHimeについては、筆者が実際にDAWNカフェに行ってきたので、次回の記事で紹介します。
特別展示に行ってみての感想
AIや自動化技術の進歩によりロボットが人間に台頭することも増えた近年、「人間の仕事がAIに奪われるのではないか」と危惧する声を耳にする機会も増えたました。
そんな中で、自在化技術の研究は人間にしかできないことだけではなく、人間の可能性を広げてくれる技術の研究であるということを知り、自在化技術こそ未来につながる研究だと感じました。
今回の特別展示で見れた自在化技術は一部であり、複数の研究者により様々な自在化技術が研究されています。
これらの研究からどんなことが実現できる様になるのか、どんな未来になるのかを考えるとワクワクします。
更にNaviarm と T-Leap のように、2つ以上のシステムを同時に使うことで、できることの幅も大きく広がりますね。
T-Leapは遠隔でもリアルタイムな双方向のコミュニケーションができる点で、コロナ禍の現状を踏まえると特に注目したい技術です。
距離や知識、力、あるいは障害により自分の限界を感じていた部分において、ロボットと共存していくことで新しい体験や発見ができる未来が楽しみになりました。
一方で、具体的な実用例を考えるのは難しいと感じました。
今回紹介した自在化技術を応用できるアイデアを思いついたあなた、ぜひご意見をお聞かせください。
終わりに
今回紹介した中で、一つでも興味のある技術はあったでしょうか。
株式会社ジザイエは、自在化の社会実装を目指しオンラインパーソナルトレーニング事業「ZENNA」や本メディアの運営、稲見ERATOの研究メンバーにも参画しています。
私たちは自在化の研究を、一緒にサービス化する仲間を募集しています。
「こんなところに自在化技術が応用できるのでは?」というアイデアも是非お寄せください。
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