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身体、脳、空間、時間の制約から解放されるサイバネティック・アバターとは?

日本政府は2050年までに人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する大型研究プログラムを始めています。ムーンショットが目指す社会は若者から高齢者までを含むさまざまな年齢や背景、価値観を持つ人々が多様なライフスタイルを追求できる社会を実現することにあります。その目標の1つに人の能力を拡張するサイバネティック・アバターの活用が求められています。今回はサイバネティック・アバターについて、ご紹介します。

サイバネティック・アバターとは?

サイバネティック・アバターとは、人がデジタルテクノロジーとつながることで、自分とは違う「新しい身体」を得ることにより、自分とは別の身体を通して身体的能力、認知能力および知覚能力を拡張することができる技術です。サイバネティック・アバターという身体の制約を超えて自身の能力を最大限に発揮し、多様な人々の多彩な技能や経験を共有できることで、誰もが自由に活動できる社会が実現します。
それはサイバネティック・アバター技術により自身の能力を高め、キャラクターをも変化させたもう1つの自分を持つ未来社会が近い将来、訪れることを意味しています。

 

サイバネティック・アバターが活用される(活用が期待される)分野

サイバネティック・アバターは、遠隔操作をして自分の身体と同じように感覚を共有できる「身代わりロボット」になることができます。つまり、人間の活動範囲の制限がなくなることで、旅行は現地のアバターをレンタルして自宅にいながら楽しめたり、宇宙から人体の中まであらゆる場所に訪れたりすることが可能になるかもしれません。
また、1人で複数台を操作して、大規模な作業をこなすことも可能になります。また、加齢や病気のために衰えてしまった能力を補うため、身体や脳の機能を拡張するサイボーグ(義体)技術が普及し、誰もが平等に仕事や趣味で活躍できるようになることも想定されています。

さらに、サイバー空間とフィジカル空間が密接に融合することで、両方の空間を行き来しながらの生活が普通になるかもしれません。人と人との不要な接触を減らしつつ、長距離移動の負担や時間に縛られることもなくなります。

 

サイバネティック・アバターの活用効果

サイバネティック・アバターは、誰もが「もう1つの身体」を獲得することができます。生まれ変わったその身体は、現実の制約を超えてさまざまな状況や環境に対応することができます。サイバネティック・アバターを活用することで、さまざまな身体の制限や社会的背景を持った人たちが、仕事や学習、技の伝承や芸術活動、エンターテインメントやスポーツ競技など、あらゆる表現・創作活動に自由に挑戦できる未来を目指しています。

政府が研究を主導している「ムーンショット目標」とは?

内閣府が掲げる「ムーンショット目標」では、将来の社会課題を解決するために、人々の幸福で豊かな暮らしの基盤となる社会、環境、経済の3つの領域から、下記の具体的な9つの目標を掲げています。

目標1:人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

目標2:超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現

目標3:AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

目標4:地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

目標5:未利用の生物機能などのフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

目標6:経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピューターを実現

目標7:主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現

目標8:激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現

目標9:こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

このムーンショット目標の中で、目標1がサイバネティック・アバターに関する研究になります。誰もが多様な社会活動に参画できる基盤として、サイバネティック・アバターの活用を掲げています。目標内容としては、2030年までに望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力および知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案すること。2050年までに望む人は誰でも身体的能力、認知能力および知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させることを目指しています。

参考:ムーンショット目標 – 科学技術政策 – 内閣府

 

目標1で目指す社会を実現するために進めているプロジェクト

ムーンショット目標1が目指す社会を実現するため、進められている研究開発プロジェクトが7つあります。そのなかで、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の南澤孝太教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩教授、株式会社国際電気通信基礎技術研究所事業開発室担当部長の金井良太氏の3人が進める研究プロジェクトの概要が公開されていますので、ご紹介します。

 

南澤教授が進める「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」

人々が自身の能力を最大限に発揮し、多様な人々の多彩な技能や経験を共有できるサイバネティック・アバター技術を開発する。技能や経験を相互に利活用する場合の制度的・倫理的課題を考慮して、人と社会に調和した、身体的な技能や経験を流通する社会基盤の構築。2050年には、この流通が人と人との新たな身体的共創を生み出し、サイバネティック・アバターを通じて誰もが自在な活動や挑戦を行える社会の実現を目指す。

2025年までのマイルストーンとして、合意した複数人がネットワークを通じて身体・認知・知覚能力を融合できるサイバネティック・アバターを通じて、異なる技能や経験を連携協調する。このことによって、身体の障害の有無に関わらず、互いの個性を尊重し違いを生かしながら、新しい仕事・教育・文化・スポーツなどの特定の活動に参加できるようになり、開発途上地域など多様な技能や経験が求められるフィールドにおいて、特定の現場の状況に応じた適切な能力拡張が行えるようになる。

ムーンショット(JST)公式YouTube:「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」南澤 孝太PM (慶應義塾大学 教授)
参考:Cybernetic being

 

石黒教授が進める「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」

利用者の反応をみて行動するホスピタリティ豊かな対話行動ができる複数のサイバネティック・アバターを自在に遠隔操作して、現場に行かなくても多様な社会活動(仕事、教育、医療、日常など)に参画できることを実現する。2050年には、場所の選び方、時間の使い方、人間の能力の拡張において、生活様式が劇的に変革するが、社会とバランスのとれたアバター共生社会の実現を目指す。

2025年までのマイルストーンとして、公共・商業施設や大阪・関西万博など人が集まる場において、主婦・主夫や高齢者や障害者がサイバネティック・アバター基盤下で複数のサイバネティック・アバターを連携・協調することによって、年齢、性別、国籍、障害に応じて利用者と関わりながら、そのニーズを聞いてフレンドリーな(ホスピタリティのある)対話や行動を実現する。

ムーンショット(JST)公式YouTube:「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」石黒 浩PM (大阪大学 教授)
参考:石黒プロジェクト ムーンショット型研究開発事業 目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現 – 「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」

 

金井氏が進める「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」

人の意図が推定できれば、思い通りに操作できる究極のサイバネティック・アバターが可能になる。推定には脳活動の内部だけでなく脳表面情報や他人とのインタラクション情報も重要な手がかりになる。これらをAI技術で統合し、ブレインマシンインターフェイス(BMI)機能を持つサイバネティック・アバター(BMI-CA)を倫理的課題を考慮して開発する。2050年には人の思い通りに操作できる究極のBMI-CA実現を目指す。

2025年までのマイルストーンとして、誰もが頭に思い浮かべた言葉や行動を高精度に解読するAI支援型BMI-CAを連携協調して、一人一人の作業能力や音声コミュニケーションの速度を超えた、身体的・認知・知覚能力の拡張を実現することとしています。特に障害を抱える人が、外科的手術を望めば、AI支援型BMI-CAの一部の機能において、一人一人以上の能力拡張が可能になり、新たな生活様式を実現できることを目指しています。

ムーンショット(JST)公式YouTube:「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」金井 良太PM (株式会社国際電気通信基礎技術研究所 担当部長)
参考:
Internet of Brains

 

そのほか、「生体内サイバネティック・アバターによる健康・医療の実現」(東京大学・新井史人)、「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」(慶應義塾大学・新保史生)、「M×Nマルチペアリング型無線プラットフォームの研究開発」(情報通信研究機構・松村武)、「ナノ・マイクロバイオアバターが拡張するバイオ秩序の共創フロンティア」(九州大学・山西陽子)といったそれぞれのテーマに沿った研究が進められています。

 

サイバネティック・アバターが注目される背景

サイバネティック・アバターが注目される背景には、少子高齢化の進展により、今後、日本国内の生産年齢人口が減少していくという取り組むべき課題があります。これは先進国やアジア周辺国においても共通の課題となっており、日本は課題先進国としてこの問題の解決に取り組むべきというのが政府の方針です。そのためには、人生100年時代において、さまざまな背景や価値観を持ったあらゆる人たちが多様なライフスタイルを追求できる持続可能な社会(Society 5.0)の実現が求められています。あらゆる人たちによるライフスタイルに応じた社会参画を実現するために、身体的能力、時間や距離といった制約を身体的能力、認知能力および知覚能力を技術的に強化することによって解決するカギとなるのがサイバネティック・アバターなのです。

 

まとめ

サイバネティック・アバターは身体や時間、距離など、あらゆる制限を超えていく夢の技術です。そして、日本政府が掲げる「ムーンショット目標」にあるような世界が実現すれば、それはまさに映画のようなSFの世界が現実のものとなります。実現目標である2050年、遠いようでそう遠くない未来では、どのような世界、社会が広がっているのでしょうか。あらゆる意味で平等で平和な世界であることを願わずにいられません。

 

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渡部 貢生
ライター

渡部 貢生

ビジネス・経済、不動産、IT、医療行政をはじめ、飲食、旅行など幅広いジャンルで執筆、編集者として活動。また、専門紙での記者をしていた経験もある。多忙な日本のサラリーマン生活から離脱するため、“微笑みの国”タイにおよそ6年間滞在。タイではタイおよびASEANの日本人向けビジネス・経済情報誌の制作に従事。いずれ日本とタイの2拠点生活を夢見て精力的に活動中。

haruka
監修者

haruka

QAとしてキャリアをスタート。複数プロジェクトを経験し、最近は受託開発のディレクターも経験させてもらってます。JIZAIE blogではディレクションを担当。映画やドラマ鑑賞が好き。スポーツ観戦もたまに。

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